題名のない文章たち

日記のような、そうでないような、そんなただの文章のあつまり

見つめられる

その人は私の目をじっと見つめた。
私はその視線が痛くて、自分を守っている何かを貫こうとするその視線を避けたくて、目を逸らそうとした。

出来なかった。ちゃんとこちらを見なさい。ただ一言言われただけなのに、私の体は固まり目と目で見つめ合うことになった。

その目は私の体の中を、心の中を、隅々まで見ているようで、その視線がただただ痛くて、でも目を逸らすことは決してできなかったので、私はどうすることもできずそのままじっと耐えていた。

私を見ていたその目は、私を強く強く守っていた何かを貫いた。それは突然やってきた。もう目を見ることはできなくて、息をするのも苦しくて、そして何より涙が溢れ出てきていた。何故泣いているのか私には分からない。

その人は私の目を見つめるのはやめて、頭を撫でていた。でもやっぱりその人の目は、私を真っ直ぐに見つめていた。心がざわざわした。漣が立っているようだった。大きな波ではない。しかし確かな波だった。数日たった今でもその波は収まっていない。

寂しい目

動物は好きだ。
猫が好きだ。
犬も好きだ。

幼い頃は艶やかな栗色の毛をしたダックスフントが家にいた。頭は白髪になった、おばあちゃんだった。私のひいおばあちゃんの後ろをいつもちょこちょこと歩いていた。

目はいつも寂しそうだった。

一昨年、弟がどうしてもと言い出して捨て犬を引き取った。
まだまだ子供のそれでもやっぱり艶やかな黒い毛をした雑種の女の子。

誰かが帰ってくると、玄関に飛び出して一番に出迎える。1日に何回でも外に行きたがる散歩好き。普段は甘えたりはあまりしないけれど、留守番するときは窓の前でじっと誰かの帰りを待っている。お座りも待てもちゃんとできる。

でも、私は彼女の目を覗き込めない。
彼女の目もいつも寂しそうだから。

なぜなのかは分からない。
彼女には、自分が人間でないことが分かっているからだろうか。
彼女の世界が小さな小さな家の中にしかないことが分かっているからだろうか。
彼女の命が周りの家族よりも短いことを理解しているからなのだろうか。

彼女の目を覗き込むと、私は自分がいつか必ずこの世界から消えてなくなることを突きつけられているように思える。

動物は好きだ。犬ももちろん好きだ。
好きだけれど嫌いなのだとも思う。

散らばる者達

本棚に入れられずに散らばってる本たちをふと数えてみた。

ベッドの上 3冊
CDコンポの上 3冊
カラーボックスに並べられたCDの上 漫画を含めると4冊
テーブルの横 漫画16冊と本4冊
机の上  8冊か7冊積み上げられている

彼らはいつ、どこから来てどうしてその場所に収まってしまったのだろう。本棚にまだ空きはあるはずなのに、散らばった場所でそこが正しい居場所であるかのように静かに横たわっている。

ポジティブシンキング

私はにはまだまだ知らないことが多い。
英語を専門とした学生であるにも関わらず、ちょっとした英単語の意味が分からなかったりする。大学受験で出てくるような構文もよく見落として、勝手に自分の都合よく文章を解釈していることもある。
もともと人と喋ることが苦手だから、英会話の上達も亀の歩くような速度でしか進んでない。(これは自分で話しに行かないせいだと分かっているけれど)

ちょっと前までは、できないこと分からないもの知らないものにぶつかるとすぐに落ち込んでいた。私はこんなにもできない奴なのかと。できないのに、何もしないダメなヤツだと。

ただ、少し考え方を変えることにしてみた。
落ち込むのはいい。いつものこと。これは多分変えられない。できない自分を嫌うことも、できないのに何もしない自分を嫌うことも、そのままでいいことにして、自己嫌悪が一通り終わったら「一つ賢くなった」と考える。ただこれだけ。

何か間違えて恥ずかしくて落ち込んでも、少し時間が経ったら、私に一つ賢くなったよと言ってあげる。

何故だか間違えることが怖くて、自分に自信が全くない。これをずっと直したくて早四年。ましになったという程度でしか直っていないが、間違いを正してもらうことで「一つ賢くなった」と言い聞かせることはいくらか怖い気持ちを癒してくれるように感じられる。

まだそういう風に、感じられているうちはできるだけ自分に言い聞かせてあげようと思う。「一つ賢くなった」と言い聞かせることが間違いだったとしたら、それに気がついたそのときに、これでまた一つ賢くなったねと自分を笑ってやろうと思う。

今も眠ったままの貴方へ

一つ言っておきたいことがある。私は私の青春の青い時期のほとんどを貴方に捧げたのだから、そろそろ目覚めて私に別れの言葉を言わせてほしい。

高校二年で心身共になにかきっかけがあったにせよ憔悴しきっていたところを助けてくれて、好意を向けてくれたことも感謝はしているし何より貴方と過ごした時は楽しかった。たとえメールでしかやりとりがほとんどできず、電話で話せるのも数か月に一度でもよかった。

でも悪く言えば、貴方がかつて言ったように、私の視野が狭かったのでしょう。それで幸せなことなのだと思い込んで、楽しかったし欲も少なかった。

 貴方は私を一途だと言った。恐らくそうなのだろう。でも少女漫画や恋愛小説ででてくるような可愛らしい一途な子とは多分違う。私が一途になれたのは貴方しかいなかったからでも、貴方のことが死ぬほと好きだったからでもなく、ただただ嫌われたくなかったから。それだけのこと。だから、貴方に嫌われないようになんでも言うことは聞いた。喜んでもらえたら安心した。貴方以外に嫌われたくない人がいれば同じように振る舞ったはずで、実際貴方の知らないところで他の一途な私は存在している。

 貴方はこんなことを言われたら怒るのか、悲しむのか、それとも両方か。でも私には言う権利がある。今までずっと、なんでも言ってほしいと貴方は私に言ってきていたのだから。

 貴方は知っているだろうか。私が街中の駅で手をつないで歩いている恋人たちを見て、私もあんな風になりたかったのにと羨んでいたことを。想像したことがあるだろうか。貴方はいつかそういう、いわゆる恋人同士がするようなことをしようといつも言っていたような気がするがあれから何年経つと言うのだろう。私の青春はもうすぐ終わろうとしている。いや、ある意味ではもう終わってしまっている。貴方は、私が貴方に青春を捧げたという事実を知っているのだろうか。

貴方は、私が貴方への気持ちを伝えた時にその告白が期限付きのものだったことを覚えているだろうか。今、いやもう随分前から、その期限は過ぎてしまっているのだ。貴方のことも大切ではある。でも、おそらくこの大切というのは恋人に抱くそれとは違ったものだ。もう手をつないで街を歩きたいとは思わない。遠く離れてしまった親友を元気にやっているだろうかと思うものに近い。

自ら一緒にいることを選んでおきながら、散々頼っておきながら、なんて自分勝手なことを言っているのか私には分かっている。分かっているから最後の挨拶くらいさせてもらいたい。他の今までの我侭も欲望も全てなかったことにしていいから、最後の別れくらいは面と向かって一言言わせてもらいたい。貴方を傷つけてしまうこと裏切っていることは許してもらわなくて構わない。むしろ罵ってもらいたい。だから、そろそろ目を覚ましたらどうだろうか。私に一言、別れの挨拶くらいさせてもいいと思う。


どうせ、この願いが本人に届くことはないのだが書かなければいてもたってもいられなかったのでここに記す。


2015/11/07追記

今朝貴方からの、自分の犠牲になってはいけないという言葉で決心がつききちんと別れの挨拶ができた。

今はただ、幸せになってほしいと漠然と思う。これから何年生きていられるか分からないけれど、ただただ笑って幸せに生きていて欲しいと思う。

無力

彼は頭が痛いと私のベッドでずっと眠っていた。ときどき頭の痛みに顔を歪めて寝返りをうつ。私はその隣で何もできずに本を読んでいた。何もしてあげられないのならば、せめて自分のためになることをしようと、読んでいたのだった。

ときどき寂しくなって、彼の肌に触れてみる。
私の手が触れてると分かると彼は、私の頭をなでた。時には抱きしめてきた。彼はそういう人なのだ。

触れてはいけない。私が求めてしまったら彼は必ず答えようとしてしまう。辛いはずなのに。答える余裕などないはずなのに。私に彼の温もりを求める資格などない。

せめて、ゆっくりと眠ってもらえるようにベットから降りて膝を抱えて丸くなる。私は無力だ。無力でなにもできないのならば、せめて邪魔にならないように小さく小さくなりたかった。丸くなって小さくうずくまってただただ息だけしていた。