題名のない文章たち

日記のような、そうでないような、そんなただの文章のあつまり

小学生の頃、近くの老人ホームに行って、お婆さんやお爺さんの似顔絵をその場で書いてプレゼントするというのをやらされたことがある。

お爺さんお婆さんは、椅子や車椅子に座って丸だったか半円だったかの形で真ん中にいる私たちを取り囲んでいた。

私はなんとなく、この人を書こうと思ったら何も言わずに黙々と書いて書き終わったら本人に「あなたを書きました。どうぞ」みたいなことを口の中でゴニョゴニョ言いいながら渡していた。

職員さんが私に気づいて「〇〇さん、よかったねぇ」とか言ってフォローしてくれたから、絵はなんとか受け取って貰えていた。

 

3人目か4人目くらいに書いたお婆さんがいた。黙々と書いて、またゴニョゴニョいいながら絵を手渡そうとすると首を振って何か言葉になってない言葉を言われたような覚えがある。

受け取ってもらえなかった私は狼狽えて、でもなんとか渡さないとと半ば無理矢理手に持たせた。お婆さんは目に涙を浮かべていた。

お婆さんは私の絵を目の前のテーブルの上に、手でちょっと払うようにして、置いた。やっぱり涙を流していた。いらないんだとすぐ分かった。

 

その様子を狼狽えたままぼんやり眺めていたとき、隣にいた他の生徒の声を聞いて我に返った。

「あなたの似顔絵を書いていいですか?」

みんなそうやって書く前に聞いて、書いたらどうですか?とニコニコしながら絵をプレゼントしていく。わぁ、ありがとうという声。照れくさそうな顔。

みんな聞いてたんだ。私には思いつかなかった。私の絵を受け取った人はみんな仏頂面でしかめっ面で。でも、書いてもらっていると知っている人たちは澄ましたりにこにこしていたり様々だ。

なんとなく、周りと自分との違いにショックを受けて、お婆さんの顔がいつまでも目に焼き付いていて、もうそれ以上絵は書けなかった。