題名のない文章たち

日記のような、そうでないような、そんなただの文章のあつまり

かっぱへの手紙

この時期本屋へ行くと必ず読書感想文コンクールのための課題図書が並んでいるのを目にする。それを見るといつも小学生の頃のことを少し思い出す。

 

小学校に入学し、しばらくたって図書館の貸し出しカードをもらい本の借り方を教えてもらってから夏休みまでの間に随分と本を読んだ。夏休みの間もプールの開放日に母と一緒に職員室に行き図書館を開けてもらってまで本を借りたのをなんとなく覚えている。

 

どんな本を読んだのかは、生まれて初めて借りたものを除いて、実はあまりよく覚えていない。ねずみくんシリーズやスイミーなど大抵絵本だったことは覚えている。ただ借りたのは覚えているのに、自分がいつ読んでいたのか覚えていない。

 

1年生が終わるころには埋まった貸し出しカードが何枚も何枚もたまっていた。私の通っていた小学校の貸し出しカードは一枚目はピンク、二枚目は青、三枚目以降はゴールドカードと言われていた黄色のカードと本を借りれば借りるだけカードもランクアップしていくというものだった。私はへたくそな文字で一生懸命に本のタイトルをカードに書き、貸し出しのハンコを何度も何度ももらった。ゴールドカードも何枚も持っていた。

 

まだカードが青色だった一年生の夏、たくさん本を読む子だといち早く気が付いたのがその時の担任教諭だった。今ではどうなのか、一般の小学校がどうなのか私には分からないが、私の通う小学校では必ず各クラス一名以上読書感想文コンクールに応募する決まりになっていた。本をたくさん借りているあの子ならきっと感想文だって書けるはずだ、と思ったのだろう。担任はある朝私を呼び寄せて、この本読まない?と渡してきた。もう題名は忘れてしまったが、かっぱの出てくる絵本だった。川と草花とかっぱの書かれた緑の表紙がただただきれいだった。

 

家に帰って何度も読み、そろそろ先生に返さなければと絵本を持って帰ったときに言われたセリフは今でもよく覚えている。

 

「本の中のかっぱさんへ手紙を書いてみない?」

 

今思えば、この先生のことセリフは物凄くうまいとただ思う。もちろん私は舞い上がった。本の中の登場人物に手紙が書けるなんて。そんな夢みたいなことができるなんて。舞い上がったままもちろん書きたいと返事をした。

 

そのあとが大変だった。先生が渡した本は読書感想文コンクールの課題図書、手紙はもちろん読書感想文。母には先生からあらかじめ伝えてあったのだろう。その日の夜から何日も何日も手紙の文章を母と一緒に考えたのを覚えている。小学生が書く手紙なんて、かっぱさんはいつもなにをしてあそんでいるのですか?とかそんなもので、母はよくそこから私が作文にできるように手助けしたものだ。私はというと、うまく書けないことを理由によく泣いた。

 

感想文を書いたことに関してはあまりいい思い出はないのだが、一つだけよく覚えていることがある。

 

感想文を清書するために、夏休み中の誰もいない学校へ作文を持って行った。男の子と夜まで泥だらけになって遊んでいた私だが、なぜかその日はいつもは着ることのない可愛らしいワンピースを着て麦わら帽子を被っていた。そして暑い中せっかく来たのだからと、いつもは入れない、クーラーの効いた職員室で氷のたくさん入った麦茶をもらった。

 

その日着ていた、ワンピースに描かれていたたくさんの黄色いひまわり。たくさんのことを忘れてしまっているのに、そのひまわりだけは頭の中に今も咲いている。